【大好き】第4話 秘密の贈り物
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それから数日後、二人はまた購買で待ち合わせをした。早坂は藤堂を見つけるとブンブンと手を振った。
「今日のおすすめはチキン南蛮弁当ですよ!」
ガラスケースの前で涎を垂らしそうな顔をしている早坂に、購買部の女性が「デザートにはプリンがおすすめだよ」と教えてくれた。
「購買部のお姉さん! おばさんって言うと怒られるので気を付けてください……」
最後のほうはヒソヒソ声で、早坂は真剣な顔で付け加えた。藤堂は早坂の無邪気な警告に、微笑みを隠せなかった。
「チキン南蛮とプリン、どちらも素敵な提案ですね。私は今日も早坂さんと同じものを頼ませていただきます。プリン、召し上がりますよね?」
藤堂が訊ねると、早坂は嬉しそうにうんうんとうなずいた。
「チキン南蛮弁当とプリンを2つずつお願いします」
藤堂は購買部の女性に向かって礼儀正しく注文した。そして、当たり前のように自然に早坂の分まで代金を支払った。
「藤堂さん、今日は僕がお金を出しますよ」
早坂がズボンのポケットから古びた小銭入れを取り出すが、藤堂はそれを優しく制した。
「いいんです、今日も私がごちそうしたい気分なんです。おいしいお弁当を教えてくれたお礼です」
藤堂は指で眼鏡の位置を直してから、優しく微笑んだ。
「今日は雨が降りそうなので、屋上庭園の東屋の下で食べましょうか。そこなら雨が降っても大丈夫です」
それから藤堂は一歩、早坂に歩み寄る。吐息すら感じそうな距離で、藤堂は声を落として囁く。
「今日は誰も来ない、私たちだけの特別な場所になりそうです」
「僕達だけの、特別な場所……」
早坂は藤堂の言葉を繰り返して、頬を赤く染めた。
それから二人は前と同じようにエレベーターに乗って屋上へ行った。
そして東屋の下で、仕事から離れた簡単な雑談をしながらお弁当を食べた。
「このチキン南蛮も、なかなかのボリュームですね。でもおいしいからあっという間に食べてしまいます」
普段は接待などで高級なレストランで食事をすることが多い藤堂だったが、早坂と談笑しながら食べる家庭的な味は格別おいしく、また心も満たしてくれた。
「藤堂さん、お口にソースが付いてます」
今度は早坂がハンカチで藤堂の唇をぬぐった。藤堂は早坂のハンカチの優しい感触に、心が震えるのを感じた。
「ありがとう、早坂さん。気遣ってくれて嬉しいです」
「この前は藤堂さんが拭いてくれたから、今度は僕の番」
そう言って早坂は無邪気に笑った。
それから早坂は、幼い頃からトラック運転手を夢見ていたが、お金がなかったのと頭があまりよくなかったので教習所に行けなかった話をした。藤堂は小さくうなずきながら聞いていた。
「でも、おかげで藤堂さんと出会えました。トラック運転手にならなくて、良かったです!」
早坂は心から嬉しそうな笑顔で言った。早坂の話を聞きながら、藤堂は静かに微笑んだ。
「私も早坂さんに出会えて、本当に良かった。もしあなたがトラック運転手になっていたら、このような出会いはなかったかもしれません。それは私たちが出会うための運命だったのかもしれませんね」
藤堂は早坂の大きな手を優しく包み込むように握った。藤堂の白い手と違い、早坂の手は頻繁に手を洗うせいで荒れていた。藤堂はそんな早坂の手を、慈しむように撫でた。
「私にとって、早坂さんとの出会いは奇跡のようなものです。これからもずっと、大切な存在でいてください」
「はい、藤堂さん。約束します、藤堂さんの大切な僕でいます。だから藤堂さんも、僕の大切な藤堂さんでいてください」
それから早坂は胸ポケットから大切そうに2枚の小さな画用紙を取り出して、藤堂に差し出した。
一枚は唐揚げ弁当の絵、もう一枚は優しい笑顔の藤堂が、色鉛筆を使って幼いタッチで描かれていた。
「藤堂さんと食べたお弁当と、いつも優しい藤堂さんです。これは僕から藤堂さんへのプレゼントです」
藤堂は画用紙を受け取り、そこに描かれた素朴な絵に胸が熱くなるのを感じた。
「とても素敵な絵ですね。特に私の笑顔を、こんなに温かく描いてくれて……」
藤堂は画用紙を大切そうに手帳に挟んだ。
「これは一生の宝物です。執務室に飾りたいくらいですが、私たちの大切な秘密として、しまっておきますね」
それからそっと、早坂の頬に手を触れる。
「あなたは本当に素晴らしい人です。私の目に映る早坂さんは、誰よりも輝いています」
小雨が降り始めていたが、東屋の下の二人は、まるで世界が二人だけのものになったかのように穏やかな時間を過ごしていた。
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